ただ翻訳するだけではNG!多言語マニュアル作成の勘所
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日本の企業において、労働力不足やグローバル化が進む中、多国籍労働者の採用はますます一般的になっています。こうした背景から、外国人労働者が効率的に業務に適応できるような教育体制を整えることが求められています。そのために、多言語マニュアルは欠かせないツールとなっています。本記事では、多国籍労働者に対する教育を担当する人事担当者向けに、効果的な多言語マニュアルの作成方法やその必要性について詳しく解説します。
多言語マニュアルの必要性とその背景
多言語マニュアルが企業に求められている背景には、次のようなことが起きているようです。
- 労働力不足と多国籍労働者の増加
日本では少子高齢化に伴う労働力不足が深刻な問題となっており、多国籍労働者の採用は多くの企業にとって不可欠なものとなっています。厚生労働省が発表しているデータによると、令和5年度10月末時点での外国人労働者数は2,048,675人となっており、前年比で225,950人増加しています。届出が平成19年以降過去最高を更新しているそうです。特に製造業やサービス業、介護業界では、多くの外国人労働者が現場で活躍しています。
- 言語・文化の違いによるコミュニケーションの課題
外国人労働者は、母国とは異なる言語や文化に囲まれた職場で働いています。そのため、日本語のマニュアルだけでは業務の理解に時間がかかり、作業効率が低下するリスクがあります。さらに、文化的な違いや業務の進め方に関する誤解が生じる可能性もあります。こうした課題を解決するためには、多言語マニュアルが必要不可欠です。
多言語マニュアルの役割と効果
多言語マニュアルの役割は、言語の違いだけでなく、文化や習慣の違いを考慮した内容を提供することで、外国人労働者がスムーズに業務に適応するためのサポートをするものです。多言語マニュアルが十分に整った環境を整備できれば、労働者は安心して業務に取り組ことができ、教育担当者や現場スタッフの負担も軽減されます。
多言語マニュアルの効果には以下のものが挙げられます。
- 業務の理解度向上
多言語マニュアルは、外国人労働者が自分の母国語で業務内容や手順を理解できるため、スムーズな学習が可能になります。このような多言語マニュアルを作れば、労働者は業務に対する不安を感じることなく、効率的に業務を習得できます。 - ミスの減少と安全性の向上
業務内容を正確に理解し、作業中のミスが減少し、労働者の安全性も向上します。特に、製造現場や建設現場のように危険が伴う職場では、マニュアルの正確な理解が労働者の安全確保に直結します。 - コミュニケーションの円滑化
マニュアルを通じて共通の理解を持つことで、労働者同士や管理者とのコミュニケーションが円滑になります。特に、日本語が得意でない労働者にとっては、多言語マニュアルが職場での意思疎通をサポートする重要なツールとなります。 - 労働者の定着率向上
労働者が業務に対して理解と自信を持つことは、職場への定着に繋がります。多言語マニュアルは、労働者が職場で感じる不安やストレスを軽減し、長期的な定着を促進します。
既存のマニュアルを翻訳するだけではNG
「翻訳って、既存の日本語マニュアルを外国語に略せばいいだけでしょ?」という声をよく聞きますが、そうではありません。その理由はなぜなのでしょうか?
- ただ翻訳するだけでは不十分な理由
日本語のマニュアルをそのまま翻訳するだけでは、必ずしも労働者が内容を理解できるとは限りません。理由は、直訳では伝わりにくい表現や日本独特のビジネスマナー、職場文化などが多く含まれているからです。例えば、日本では「報連相」(報告・連絡・相談)が重要視されますが、他国ではこうした概念が必ずしも一般的ではありません。また、表現方法や敬語の使い方など、文化的な違いを考慮しないと、マニュアルの内容が適切に伝わらない可能性があります。
- 業務特有の専門用語や表現
業界特有の専門用語をそのまま翻訳しても、外国人労働者にとって理解しづらい場合があります。例えば、製造業で使われる「トルク」や「ゲージ」などの用語は、その意味や使い方を丁寧に説明しないと誤解を招く恐れがあります。 - 動画マニュアルの配備
多言語マニュアルを作成する際には、労働者が視覚的に理解しやすいようなレイアウトや図解の工夫も必要です。しかし、どうしても文章や画像だけでは理解するのが困難な業務については、多言語の字幕や音声を挿入した動画マニュアルを作成し、動きを確認しながらテキストで確認ができるので、視覚的に伝わりやすいマニュアルを作成できます。
多言語マニュアル作成時のよくある失敗とその対策
多言語マニュアルを作成する際、日本語のマニュアル作成と同じ用に作成してしまうとうまく労働者に理解してもらえない場合があります。そうならないためにも、多言とマニュアル作成時にありがちな失敗とその対策をまとめました。
- 翻訳ツールにのみ頼る
【失敗例】
マニュアル作成時に、コスト削減のためにGoogle翻訳やDeepLなどの翻訳ツールを使用してマニュアルを作成するケースがあります。しかし、それでは機械翻訳では文法やニュアンスが正確に伝わらない場合が多く、誤解を招く恐れがあります。PowerPointなどでマニュアルを作成していた場合、文字のインデントを合わせるためにスペースを入れたり改行を行っていたりすると、誤訳されてしまうケースもあるので気をつけましょう。【対策】
可能であれば専門的な知識を持つ翻訳者やネイティブスピーカーによる監修を依頼し、翻訳の品質を確保しましょう。また、機械翻訳を活用する場合は、必ず人によるチェックを実施しましょう。 - 情報量が多すぎて理解しにくい
【失敗例】
マニュアルに過度な情報を詰め込みすぎてしまうと、読む側が混乱してしまいます。
多言語マニュアルでは、日本語よりも説明文のほうが長くなりがちです。説明文が長くなると、1ページあたり情報量が少なくなってしまい、結果としてページ数が多くなってしまう場合があります。さらに、専門用語や日本の習慣などの解説も追加すると、同じ業務マニュアルでも日本語版と比べると多言語の方が全体の情報量マニュアルの量が多くなってしまいます。マニュアルの情報量が多くなってしまうと確認したい箇所を探すにも時間がかかってしまいます。従って、業務確認が急を要する際に、確認したい箇所をなかなか見つけられないかもしれません。
【対策】
マニュアルの内容はシンプルかつ明確に整理しましょう。重要な情報を優先的に記載し、図解や写真を活用して視覚的に理解しやすくする工夫を取り入れます。また、セクションごとに目次やインデックスを設け、必要な情報にすぐアクセスできるようにしましょう。どうしても情報量が多くなってしまう場合は、マニュアルを分割したり、専門用語や日本の習慣などは別の資料を用意したりすることも有効です。 - マニュアルの更新を怠る
【失敗例】
この項目は日本語のマニュアル作成にも当てはまりますが、業務内容や手順が変更されたにも関わらず、マニュアルが古いまま放置されていることがよくあります。マニュアルを更新する作業は非常に重要となっており、怠ってしまうと、マニュアルの意味を成さなくなってしまいます。定期的にマニュアルを見直し、最新の情報を反映しましょう。しかし、リソースが足りず、マニュアル作成の優先度が下がってしまったり、今いる人間を即戦力化するためにOJTをメインで教育を進めたりと、マニュアル作成や更新に時間をかけることが困難になっているというのが現状でしょう。
【対策】
タスク処理の効率化や、マニュアルの作成時間を削減し、マニュアルの作成・更新を行いましょう。特に、マニュアル作成ツールの活用で、マニュアル作成・更新にかかる時間を削減できるので導入を検討してみるのも良いかもしれません。 - フィードバックを反映しない
【失敗例】
マニュアルを作成した後、実際に使う外国人労働者からの意見を無視し、そのまま使い続けるケースがあります。【対策】
マニュアルは、労働者が使いやすいものでなければ意味がありません。定期的にフィードバックを収集し、改善点を反映させましょう。より実用的なマニュアルを作成できます。アンケートや面談を通じて、労働者の声を積極的に取り入れましょう。
まとめ
「ただ翻訳するだけではNG!多言語マニュアル作成の勘所」と題して、ご紹介してまいりました。多国籍労働者を対象にした教育を効果的に行うためには、多言語マニュアルの作成が欠かせません。単なる翻訳ではなく、文化的な背景や言語特性を考慮したマニュアルを作成していきましょう。そして、効果的なマニュアルを作成すれば、労働者の業務理解度が向上し、職場の安全性や生産性も高まります。
また、常に最適なマニュアルを維持するためには、定期的な更新とフィードバックの活用が必要不可欠です。適切な多言語マニュアルを活用し、外国人労働者の教育をより円滑に進めていきましょう。
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